希望の国、南ア開催のサッカーW杯は成功するか?

今日から始まったサッカー・ワールドカップ(以下W杯)に注目している。別にサッカーが大好きな訳じゃなくて、治安の悪い南アフリカ共和国で無事に開催できるのだろうかと。もちろん、成功して欲しいんだけど・・・。

悪口は言いたくないけど、過去に旅したアジア、アフリカ二十数カ国の中で南アが一番危険を感じた国だった。特にジョバグ(経済の中心地ヨハネスブルグの通 称)の治安は極悪だ。世界三大犯罪都市との異名もあるとか。街の中心部にも関わらず、昼間にも関わらず、黒人以外は歩くことが許されない。アメリカと同じ で銃が蔓延しているため、誰かが襲われても誰も助けてくれない。日本人旅行者が一人で中心部を散歩して、1時間以内に強盗に会う確率は、限りなく透明に近 いブルー(古い!)、ではなくて100%に近い。僕も不用意に歩いてやられそうになりましたからね。まるで漫画「北斗の拳」をほうふつさせる弱肉強食の世 界がここにある。日本人は平和ボケしているから、あっという間にヤラレますぜ。

ゴールドラッシュをきっかけに出来たこの街は、金が取れなくなった今でもお金(仕事)を求める人々が、合法、非合法に関わらずアフリカ中から押し寄せて今 も拡張を続けている。不法移民らは南ア人に差別されながら、何とか自国民のツテを頼って郊外のスラムで住処を得る。アパートの一室に平気で10人とか一緒 に暮らすのだ。ジョバグのスラム街リアルライフは2007年に日本公開された映画『ツォツィ(Tsotsi)』によく描かれているので是非見て下さい。ス トーリーも良くできていてただのお涙頂戴ではなく、たくましく生きる主人公らに勇気をもらえるから。

残念ながら統計も僕の印象を裏付けてしまう。南アにおける武装強盗事件の発生件数は日本の28倍、殺人は14倍だという。年間の殺人事件件数は2008年 度合計18148人で、驚くことに平均して一日約50人も殺されている計算。治安が世界でもトップクラスの優良国である日本に対して、最低ランクの南アは なかなか行きづらい国であることは確か。日本からのW杯観戦ツアーの申し込みも低調だとか。

この国が嫌いな物言いのようだけど実はこの国が大好きだ。南ア第二の都市、ケープタウンに8ヶ月間滞在したことがあって特別な愛着を持っている。ケープタ ウンは喜望峰のあるケープ半島の付け根に位置し、大航海時代にヨーロッパからのインド航路中継地として入植が始まった新しい街で、それ以来ヨーロッパ文化 が根付いた為、アフリカっぽくない洗練された雰囲気がある。ジョバグからケープタウンにたどり着いた朝、グレイハウンドバスの車窓からテーブルマウンテン と呼ばれる山とその麓に広がる美しい港街を見て一目惚れした。魅力は沢山あるけど、まずカリフォルニアのような地中海性気候なので、夏は湿度も少なくカ ラッと晴れて青い空が非常に気持ちいい。ケープタウンから喜望峰までケープ半島を巡るドライブは絶景だし、野生のペンギンもいるし、海辺のショッピング モールにはオットセイがひなたぼっこしているし、ステレンボッシュという隣街にはワイナリーが点在し、青空の下、緑のブドウ畑が広がっている。ワインも安 くて美味しい。白人、インド人、マレーシア系の人々、そして多様な黒人達、カラードと呼ばれる混血の人々等等がそれぞれの言葉と文化を守りながら、この街 で生きている。ちなみにケープタウンは、ゲイパレードが行われるほどに自由である、というかアフリカっぽくない。大抵のアフリカ文化においてホモセクシャ ルは最高レベルのタブーであるが、恐らくアフリカ大陸上で唯一この街ではそれが許容されている。タブーの性に目覚めてしまったアフリカの黒人達は大人にな るとこの街を目指すとか・・・。ケープタウンに限らず、とにかく南アは自然が美しい国なのだ。

南アは多種な民族が共に暮らす希望の国だ。希望とは悲惨な現実があることの裏返し。悪名高いアパルトヘイトと呼ばれる人種隔離政策が法律上終わったのは 1994年。まだ16年しか経っていない。現在でも人種間の貧富の差と黒人蔑視は根強く、長い時間をかけて世代を超えて解消していくしか方法がないという のが、長期滞在した僕の実感。ケープタウンやジョバグなど大都市では、白人は郊外の標高の高く眺めの良い広い敷地に警備のバリ線を張り巡らして住み、下層 の黒人はタウンシップと呼ばれるスラムに密集して住んでいる。ラッシュアワーの朝に、交差点の真ん中でダンボールに「仕事求む」と書きなぐったプラカード を持つ黒人達をよく見かけた。差別を禁じる法律ができても、白人による搾取の構造は変わっておらず、それはアパルトヘイト廃止を勝ち取ったマンデラ大統領 が、人種の融和という美名の下に白人の支配構造に目をつぶった負の遺産であり、今後の課題だ。

2008年一月にジンバブエへのトランジットで南アフリカのジョバグに降り立ったとき、空港はW杯対策で拡張工事を行っていた。車で送迎してくれた宿のス タッフは「工事が遅れていて間に合うかどうか」とあきれ顔だった。当時の日本でも本当にこの国で開催できるのかが不安視するニュースが流れていたが、つい に実現される時がやってきた。今回はアフリカ初の国際ビッグゲーム開催であり、世界の人々のアフリカに対する意識がきっと変わるだろう。加えてW杯が成功 裏に終われば、南アフリカの人々にとって大きな自信となり、南ア国民としての連帯感を前よりも強く感じることができるかもしれない。これをきっかけに、人 種に関係なく最低限の生活ができる安全な社会の実現に向けて一歩前進して欲しい。

日本人も南ア、そしてアフリカに対する興味を強くするだろう。日本のマスコミが流す情報はアメリカに偏りすぎて、一文字違いのアフリカ、およびその他の地 域に住む多くの人たちが無視されている。TV番組でも南アの美しい自然が紹介されると思うので、僕が現地で感じた魅力を少しでも理解してもらえれば嬉しい です。