2020年10月中旬。コロナに…
天空の楽園 チマニマニ国立公園への誘い
チマニマニ国立公園はジンバブエ東部、モザンビーク国境沿いにある高原。僕は過去に4回もトレッキングに出かけました。なぜ何度も登るのか?それは「そ こにチマニマニがあるから」ではなくて、天国のように素敵な場所だから。日本で例えるなら尾瀬に近いでしょうか。尾瀬は有数の観光地ですから大勢の登山客 が訪れます。キャンプしても、歩いていても周りを気にしないといけません。「ヤッホー」と叫びたくても遠慮しちゃいます。人里離れた山奥まで来て他人に気 を遣わなくてはならない、という矛盾をいつも日本の山では感じてしまいます。一方、チマニマニ国立公園はほとんど人に会うことがなく、雄大な自然を独り占 めできるのです。
尾瀬と同様、チマニマニ国立公園にたどり着くにはまず山を登らなければなりません。しかも、食糧、調理器具から一切合切を自分たちで全部運び上げる必要 があります。最寄のチマニマニ村からは17km程度離れており、運が良ければ登山口まで車で行くことができますが、運が悪ければ麓の農場から歩くことに。 主食のとうもろこし粉やバナナ、玉ねぎ、トマトなどの食料を含めて10kgを優に超えるバックパックを背負いながら歩くのはかなりしんどいです。公園入口 で受付を済ませ、急な山道を登ること約3時間。頂上にたどり着けば、まさに天国のように、色とりどりの高山植物が咲き乱れ、小鳥たちはさえずり、緑の草原 が一面に広がります。流した汗、足腰の疲労が報われる瞬間です。猿の群れに会うこともあるし、はりねずみも生息しています。
たった一つある山小屋に到着すると、眼下には盆地のような草原が広がり、あちこちに小川が流れているのが一望できます。山小屋の管理人一人しかいない高 原を舞台に、ワイルドなキャンプが始まります。自然を壊さないというルールを守る限りやりたい放題。やりたい放題って何をするのか・・・、それは各自の自 由ですが、例えば、プールのような泉で、一目を気にせず裸で泳ぐ。猿に対抗して、獣のように大声で吼えてみる。滝に飛び込む。山小屋以外にも洞窟が点在し ているので、好きな場所に滞在して、原始人的生活を送ることができます。川で洗濯し、川の水で調理して、枯れ木を集めてたき火をする。太鼓を叩き、ムビラ を奏でる。人間界のしがらみから離れて、自然と一体となる開放感を味わえます。僕にとっては最高!ですが万人受けする内容ではないかも。
一番最初この公園を訪れたのは2001年、首都ハラレの宿で一緒だった老若男女日本人グループ総勢8人でした。自分たちだけかと思ったら、一人の青年が 夕刻迫る頃山小屋に登場。なんと日本にも来たことのあるという白人のジンバブエ人で、僕らはすぐに打ち解けました。彼曰く、この場所にはUFOが現れると のこと。その晩みんなで彼の指導の元、輪になって手を繋ぎ「ハ~~~~」とマントラを唱えて大真面目にUFOを呼んでみました。信じる心が足りなかったせ いか、残念ながら来ませんでしたけど。UFOが来なくても夜は文字通り満天の星空。星に詳しい食いしん坊のおじさんが、南半球でしか見ることができない大 マゼラン雲と小マゼラン雲の位置を教えてくれました。満月に吼えながら太鼓を叩き、夜は更けていきます・・・。1週間ほど山中で過ごし、もっと滞在した かったのですが、食糧が尽きたので仕方なく下山しました。
昔この土地にはアフリカネイティブのコイサン族が住んでいたようです。山小屋近くの巨岩にはロックペインティングが残っています。目印はないけど山小屋 の管理人に聞けば教えてくれます。僕の旅友達のチェコ人が仲間と一緒にチマニマニに滞在し、無謀にも川沿いを下山したときのこと。滝に行く手を阻まれ、道 に迷って山の中を彷徨っていたら偶然、壺やたき火の跡など大昔の居住跡を発見したのでした。触れてはいけない雰囲気を感じて、そっとそのままにしておいた とか。
最後に訪れた2006年はチマニマニにゴールドラッシュが起きていました。機械を使わずにスコップやつるはしだけで、金が取れるそうです。村では「金を 買わないか」と声を掛けられ、山へ向かっていると、スコップを担いだ屈強の男たちとすれ違いました。 盗掘にきているからなのか、こちらと目を合わせようともしませんでしたが、驚いたのが彼らの足元。30cmはあるのではないかという巨大な足、更にゴツゴ ツした石が敷き詰められた山道なのに、裸足だったんです。人の足はそこまで丈夫になれるのかと、人間の可能性を思い知らされました。
トレッキングの起点となる麓のチマニマニ村ものんびりしていていいところ。季節になると、日本のスーパーでは決してお目にかかれない巨大なアボカドが小 さな市場に並び、年に一度「チマニマニ音楽祭」が開かれています。安宿が一軒、その名もヘブンロッジ。山から降りてきて、疲れを癒すのに最高の宿。チマニ マニ村そして国立公園は、ジンバブエに行く機会があれば、是非訪れていただきたいお勧めの名所です。
ところでジンバブエ人たちはチマニマニ国立公園に行きたがりません。この山には悪いスピリットがいると信じているから。僕が「チマニマニに行ってくる よ」とムビラ関係の知り合いに伝えると、「あそこで変なことが起きても見て見ぬふりをしろよ」、「悪いことが起きないように気をつけろ」と真顔で忠告され ます。もし、行くことがあったら、一応気をつけて下さいね。
下のYoutube動画は2006年にムビラ友達と国立公園を訪れた際、僕が撮影した写真のスライドショー。チマニマニの山を流れる小川の音のフィールドレコーディングをBGMにしました。これを見ているとまた山に帰りたくなります。